私は心臓をつかまれていた。
ひどく強く掴まれていた。
心臓を掴む者の手は細かった。
胴と結ぶところは見えないが、
つかまれている心臓もぼんやりして見えなかった。
彼の声は甘く、ステレオに流れて
村の人たちを眠りからさましていた。
私は彼を捜して村中を歩いた。
息を殺して扉をあけても彼の姿はなかった。
忍び足で近づいても彼の姿は消えていた。
咳払いをして角を曲がるとき、確かに
彼の痕跡は見つかるのだが、
私は彼のために音を出すのではない。
あるとき足音だけが近づいてきた。
私の心臓を握りつぶした者の顔は赤く、美しく、
私を通り過ぎて後方に去った。
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