2008年8月26日火曜日

あなぐら入道

気づいてみると家に漫画がほとんどない。どうも気楽に読むものが少ないのが困る。
単刊もの以外だとサラ・イネスの『誰も寝てはならぬ』くらいしかない。この漫画は何度読んでも効能が落ちない優れ物なんだけれど、その話はいずれ。

そんなところに、このあいだ、10年前の引っ越しでつくった段ボールからゲゲゲの鬼太郎の文庫本が出てきた。
5巻までまとめて読んでみたが、とくに気に入ったのは「あなぐら入道」という話。
プロットは以下の通り。
・やくざが、廃鉱に住む妖怪を見世物にしてひとやまあてようとたくらむ。
・最初は子分が妖怪をとらえに行くが、妖怪の術にかかって退散してくる。
・次に親分が、妖怪の術を巧みに破って捕らえることに成功する。
・そこに妖怪の危機を知った鬼太郎たちがやってくる。
・鬼太郎は、人を改心させる効果がある苔を使って親分を心変わりさせ、妖怪を解放する。

面白いと思ったのは、妖怪の記述。
そのあなぐら入道という妖怪は、
「冷たい風を吹かせ、水滴を落とす」
という術を持っている。怪光線を発したり鏡の中に出入りするわけではない。たったこれだけのことながら子分たちを退散させる。今度はそれを親分が破るのだが、これもたいしたことをするわけではない。カイロで冷たい風をしのぎ、レインコートで水滴をはじくだけ。
あなぐら入道は、ほらあなでクモを養殖して食べていたり、親分にだまされて冷蔵庫に閉じ込められたのにちっとも怒ってなかったり、ちょっとずれているけどそれが逆にリアルさを感じさせる。

知らない言語の民話を読んでいるような、不思議な感覚がここにはある。水木しげるは実際に見聞きした材料からこれを作り上げたんじゃないかという気がする。

誰かがカフカの小説を評して、異世界の視点から異世界を描いていると言っていたが、この話を読むと似たような感覚をおぼえる。

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